枝野幹事長は26日、東京都内の会場で、政治評論家の篠原文也氏の主宰する勉強会で約100人の参加者を前に、アベノミクスの失敗の原因や、民主党の目指す経済政策について講演を行った。その講演の要旨を編集部がまとめた。

◆安倍首相の経済政策は40年前なら正解だった

 こんにちは。枝野です。こんなことになってしまい、お話を引き受けた時とは状況が変わってしまった。

 遊説先では、この2年間で確かに株価は上がったが、この中で株を持っている方はどのくらいいるかという話から始める。今日の会場ではけっこういそうだが(笑)、他の場所ではせいぜい2、3人ではということから話し始める。

 株で潤ってるような人が大勢いそうな場所で同じ話をしてもしょうがないが、普段遊説で話している背景になっていることを、経済の最前線で活躍している皆さんの前で話すのはおこがましいが、どんな認識に立って、われわれの政策を考えているかを話したい。

 要するに、過去の成功体験に基づいて政策を考えるのか、10年くらいの経済環境の変化を踏まえた社会構造を示す、その経済政策を考えるのか。安倍さんの経済政策は40年前なら正解だった。経済の悪い状況、デフレ下では金融緩和を行い、財政出動を行い、景気を浮揚させると同時に、いわゆる規制改革、自由化を進めることにより競争促進して、潜在成長率を引き出すというものだ。

 ただこの2年間の結果を見ると、株は上がり、輸出企業は円安による差益で利益は上がったけれども、円安によって輸入物価は上がる一方で、それに連動する実質賃金が上がっていない。その状況の中で消費も落ち込んでいる。

 先日7~9月のGDP速報値がマイナス1.6%と発表されたが、専門家の皆さんの事前予想値や分析を別にすると、実は昨年の10~12月期もほぼ同じ数字だった。消費税の駆け込み需要の反動が前3カ月と後ろ3カ月で起きた。それが、駆け込みと反動が終わってから元の水準に戻ったと考えることは自然なことであり、逆に言えば、昨年の10~12月期からマイナス成長に入っているというのが大きな流れだ。この状況になっているのはなぜか。

◆円安効果が波及しない二つの基本構造

 それには、大きな二つの観点がある。

 ひとつは円安になっても輸出量は増えていない。国会論戦でも安倍さんは認めたが、円安になれば海外でのドルでの売値を安くできるが、安くせずに利幅を広げることを多くの企業がしていない。ドル建ての値段が変わらないので輸出量は変わらない。

 これはたまたま起きていることではない。なぜかというと、この10年くらいの間に価格で競争している分野はもう国外展開している。日本の国内で健闘しているのは、価格で勝負しない、高くても戦える分野でしか勝負していない企業だ。円の相場が変動しても、ドル建ての価格を下げるということにはならない。だから生産量も増えないし、設備投資も増えないし、輸出数量も増えないし、下請けの受注も増えない。したがってその波及効果は浸透しない。構造的な問題だ。この背景はいうまでもなく、新興国の成長によって安いコストで安い価格のものを生産する工場は、政治的リスクはあるにしても、いくらでも展開する余地はある。

 市場に近いところで製造したほうがいいこともあり、逆に言えば、日本で作れないもの以外は海外展開してしまう。これは為替相場が変動しようが、法人税率を下げようが、より大きな規模での生産コストに圧倒的な差があるし、このトレンドは変えられない。

 もうひとつは基本的に日本の経済は圧倒的に内需によって構成されている。もちろん輸出企業に頑張ってもらわなければいけないが、経済全体における圧倒的シェアは内需だ。この内需が伸びなければ結局は安定的成長にはならない。

 内需を伸ばすには若干のインフレはいいが、結局デフレからの脱却に向けて起こってきたのは輸入物価の上昇にすぎない。インフレになったからといって、これによって誰か国内で収入が増えたわけではない。物価が上がったから投資をして儲けやすくなるわけでもない。消費者がより多く払っている金は基本的には海外に流失している。インフレなので消費自体は押さえ込まれているから、これでは内需拡大にはならない。

 この二つの基本構造を考えれば、この2年間の経済政策が安定的な経済成長にはつながらず、目標達成できないのは当たり前のことだ。

◆カンフル剤や痛み止めでは治らない

 では、どうすればいいのか。これは街頭演説ではあまり話さないが、即効性を求めること自体に無理がある。もちろん、病気の治療でも痛み止めやカンフル剤は必要に応じて使わなければいけないし、外科手術が必要な時もある。

 しかし、反省を込めていうと、外科手術でもないのではないか、日本の経済や社会が抱えている壁を打ち破るのは。小泉純一郎さんは、郵政民営化をすればすべて日本は良くなると言ったが、結局そうではなかった。何かどこかにメスを入れて切り取れば、良くなる病ではない。

 日本の抱えているのは成人病のようなものだ。先輩世代のみなさんのおかげで豊かになることはできて、先進国になったが故に、少子高齢化の大きなトレンドに入ってしまっている。れを治すには、痛み止めでもカンフル剤でも手術でも治らない。

 どうやって治すかといえば、食事を変えて、運動をして、漢方薬を飲んで、体質改善するしかない。そのプロセスの中で適度な痛み止めはあるかもしれないが、痛み止めやカンフル剤で待っていれば経済が良くなるというのは、もともと日本の潜在成長率の高かった高度成長時代の過去の成功体験でしかない。

◆高齢者層と子育て世代の安心の改善

 では、日本の成人病体質のどこを変えなければならないのか。

 私は今50歳だが、私の世代は、生まれ育つ過程で自分の家庭がだんだん豊かになっていくことを自ら実感できたぎりぎりの世代だ。わが家には物心ついた頃、自家用車はなかった。電話もなかった。小学校の低学年の頃、クラスの名簿を見ると、半分以上が電話番号欄に(呼)とあった。物心ついた頃のテレビは白黒で、当然エアコンもなく、大学受験の頃は夏休みに朝早く、冷房の効いている公立図書館に行って、勉強していた。それが5年くらい経つと今言ったようなものが初めから揃っていた。こんな時代と今の時代は違う。

 少なくとも、高度成長はもう幻想。ではどうすればいいのか。経済はいうまでもなく、需要を掘り起こしてそこに供給することだ。日本の社会で存在している大きな需要で、これから掘り起こしていくと大きく伸びる分野はどこか。それは高齢者と子育ての安心の改善だ。お年寄りには快適で安心な老後を提供する。これは間違いなく需要がどんどん増えていく。人口も増えて行く、ここを掘り起こす。

 人口減少の原因は先進国ゆえの豊かさにある。子育て支援策を充実させるほど、眠っていた子供を産み育てたいという願望が呼び起こされる。したがってこの二つの需要を喚起していくこと、これしか中長期的に内需を安定して拡大させる手段はない。これが何よりの経済対策だ。

◆老後の安心感を消費拡大につなげる

 今日お集まりの皆さまは典型だが、「お年寄りが貧しい」というイメージの刷り込みは間違っている。全体としては高齢者ほど貯蓄をたくさん持っている。若い頃の働き方にもよるが、厚生年金や共済年金を満額で受け取っている方はそれなりの額を受け取っている。

 問題は、そうした皆さんが若い頃の蓄えをそれなりに取り崩して消費に回しているかといえば、そうではない。大部分の方は、もらった年金を節約して蓄えている。国民年金ではそうはいかないが。ここにしかいま金はない。

 借金して国がばら撒くか、日本銀行が1万円札を刷らせても、国債を買って市中にキャッシュを出しても、お金は出てこない。高齢者の皆さんが、一気にではなくても、その金融資産の総計を1000兆として、その10%でも1%でも使っていただければ、大きな金額だ。それができないのはなぜか。

 「今はもらっているが、10年後や20年後に本当にもらえるのか。介護や医療がどうなるか心配だから、とりあえずキャッシュを握っていればなんとかなる。だから手放さない」――これが国民の間に強く広がっている。消費を拡大するにはこの呪縛を少しずつでも解いていく。つまり高齢者の皆さんに、全部とは言わないが、老後になったら元気なうちに効果的に有効に使ってもらう方向に誘導していくしかない。そしてそれに合わせたサービスを提供していく。

 いろいろな評価があるが、私たちの政権の時に、サービス付き高齢者住宅を強力に後押しした。老後の安心感のためには、現状でもゆとりのある方はそういうところにお金を使う。ましてや、将来の負担を少しでも小さくしていきながら、その分野の供給を増やしていくことで消費を拡大していく。

◆子育て世代の潜在的購買力を喚起する

 もうひとつは子育ての分野だ。いうまでもない。ただ、ここはそもそも購買力が弱く、サービスを十分に提供しなければならないが、保育所にしても学校にしても、低料金のところは需要がたくさんあるが、それだけでは経済は成り立たない。購買力さえあれば、可処分所得さえあれば潜在的需要はある。

 なので、ダイレクトに可処分所得を増やすのはまさに経済政策だ。例えば、子ども手当。これが、われわれの政権で大きな批判を受ける原因になったのは、子育て世代の親への支援策と勘違いされたのが原因だ。子育てにお金がかかるのは間違いない。中にはパチンコに使う親がいるかもしれないが、そんなレアケースを言ってもしょうがない。大部分の親は子供のために使ってくださいと渡せば、間違いなく需要がたくさんあるから可処分所得が増えて消費に向かう。

 ここで子育て支援のためのサービスの供給を刺激していく。もちろん本来的なベースになる子育て支援策も充実させる。こうしたことをやることで、ここまで申し上げなかったもう一つの決定的な対策は、中間層を再構築すること。別の言い方では、貧困層を押し上げて中間層に戻すこと。これは日本にとっては必要だ。格差拡大は内需には絶対にマイナスになる。これは間違いない。分厚い中間層があるからこそ消費は増えるのであって、ここを拡大すること。

◆分厚い中間層の再生は雇用の安定から

 年収1億円が2億になってもそのすべては消費に回らないが、年収150万が200万に増えれば、必ず消費に回る。年収500万が300万に落ち込めば、その分は消費が落ち込まざるを得ない。低所得者層ほど所得の減少が消費にダイレクトにつながる。中間層が減って、ごく一部が富裕層になって、貧困層が増えるという中間層の崩壊は消費にはマイナスだ。そのためには貧困層を中間層に戻さなければならない。また、治安も安定しない。

 そのためには安定的な雇用の場をつくることだ。そのひとつとして、労働法制は緩和ではなく、強化をしなければならない。緩和は逆だ。非正規雇用が増える。本当は非正規を明日から全部正社員にすればいいが、それをやった瞬間に日本の企業は立ち行かなくなるので、急にはできない。経済状況を見ながら、じわじわと非正規から正規に戻さなければならない。それを促す方向に労働法は強化をしていかねばならない。今政府がやっていることは全く逆だ。個別の企業の利益と、日本経済全体の利益とは違う。これを逆回転させる。

 老後の安心をサポートするサービス、子育て支援のサービス、これは安定的な雇用だ。公共事業は一時的に経済を刺激することは間違いないが、安定的ではない。介護や子育ては安定的な需要があり、今後伸びていくからこの賃金を引き上げていくべきだ。中期的にはより効果的だ。こういう仕事で一生食べられるという状況に近づけていく。

 これらの政策はカンフル剤ではない、即効性もない。半年や1年では効果はないが、しかしこれをしっかりやらなければ、今のやり方では中間層は壊れていく一方で格差は拡大する。これでは10年、20年と日本経済が体力を回復することにはならない。

 こういった考えを元に、今の話を街頭演説の7分で伝えるという無理難題を今一生懸命やっているし、さらにテレビ討論ではこれを30秒で伝えることに悪戦苦闘しているのが今の私の仕事だ。(了)